鴨下葉子さんの絵を私は日仏現代美術展(受賞)で知 ったのであるが、彼女のロマンチックな憧憬をこめた 明快な造形には、情念を高揚させる精神の強い弾力が 感じられる。同時に、直截に童心をゆさぶる愉しさがある。しかし、それは情動に全身をゆだねるのではなくて、しっかりと握った手網を自在に引きしめたり緩めたりする賢明な判断と操作がかくされているのだと思う。
 ところが新作を見ると、曲りくねった白い建物や緑の野や赤い木や、またこけし人形のような顔が、しだいに一層形を崩しながら消えて行き、これに代わって 林檎や梨などの果物があらわれ、それらが一つ眼小僧のような無気味な穴をあけ、そこからはじめはおずおずと、しだいに大胆に、いろいろな物体が躍り出てく る。この生れ出たものが画面にあふれ、ついには玩具箱をひっくり返したような賑やかさとなる。 一方ではしかしまた、この真昼の散乱・歓喜の光景 を夜に移して、“ひっそりと沈む”濃い青の世界も登場する。こうした作情と作調の深化と展開、そのあざやかな出現に私は瞠目するのである。

                                                美術評論家